韓国ドラマ『ゴールデンスプーン』
格差社会が映す「選択と代償」のファンタジー

画像説明
「そのスプーンで同年代の誰かの家で3回食事をすれば、
人生を入れ替えられる」
ある日、不思議な老婆から金のスプーンを手に入れた青年の物語。

もし「金のスプーン」で人生を選べるとしたら、あなたはどちらを掴みますか?
韓国ドラマ『ゴールデンスプーン』は、そんな究極の問いを投げかけるファンタジードラマです。
本記事では、印象的なセリフを通して、この物語が描く“選択と代償”のテーマを深掘りします。
※一部ネタバレを含みます。

あらすじ

貧しい高校生が、不思議な「金の匙」を手に入れたことで、裕福な財閥御曹司と人生を入れ替える。
ファンタジー要素を通じて、現代韓国の格差社会やお金・家族・本当に大切なものについて描かれています。
主人公たちの選択だけでなく、彼らを取り巻く「親」たちの価値観の対比も深く描かれています。

ドラマの中のセリフから

ドラマの後半で、特に私が気になった二人の父親を象徴するセリフを紹介します。
チェ・ウォニョン演じる財閥会長ファン・ヒョンドは、優しそうな顔の裏に冷酷な執念を隠し持つ「悪の象徴」として描かれ、それに対し、チェ・デチョル演じるイ・チョルは、貧しさゆえの苦悩を抱えながらも、息子に計り知れない愛情を注いだ「家族愛の象徴」です。

スンチョンの父親イ・チョルは、「トントン拍子」という惣菜店を運営し、ファン邸へ定期的にケータリングをしていますが、その回収時にふと大学時代から憧れていた高級画材セットを目にして、複雑な感情を露わにします。そして、その姿を見たテヨンの父親ファン・ヒョンドのセリフから。

第22話のシーンより
ファン・ヒョンド
黒鉛とダイヤモンドは、同素材ということをご存知じですか? 与えられた環境によって黒鉛とダイヤモンドに分かれるんです。物でも人間でも価値がわかる人といるのが、幸せだということです。お持ちください。

--突然の厚意に、最初は戸惑うチョルだったが、素直に高級画材セットを持ち帰ろうとしたときに、ヒョンドの嘲う声が室内に響く。

ファンヒョンド
おっしゃいましたよね。「貧乏は伝染しない」と。しかし、ご存じないでしょう。富には、簡単に人は染まってしまうんです。あなたが夢破れたのも、結局はカネのせい。あなたはカネに負けたんです。認めたくないでしょう。…….今の私には何でも買えます。あなたの夢もあなたの妻が作った惣菜も、あなたの自慢に息子さんまで。息子さんが私を訪ねてきましたよ。「テヨンの力になってくれ」と言ったら、目を輝かせた。あなたといても黒鉛にしかなれないが、私といればダイヤモンドになれると、彼は知っているんです。

イ・チョル
お言葉を返すようですが、息子を見くびらないでください。

ファン・ヒョンド
あなたの息子も富に染まってしまったのです。今のあなたのように。


ファン・テヨン(中身はイ・スンチョン)と父親チョル(テヨンの中身がスンチョンであることに気づいている)が焼肉店で会う場面。チョルが息子スンチョンが小学生の頃に書かいた作文を読み、昔の息子のことを思い出させようとし、その作文を手渡すシーン。以下、作文の内容です。

第24話のセリフより
題名「タダ」
この世にタダはないと先生は言ったけど、本当はたくさんある。
空気を吸うはタダ、話すにもタダ、
花の香りを嗅ぐのもタダ、空を見るにもタダ、
年を取るのもタダ、風の音を聞くのもタダ、
ほほ笑むのタダ、夢もタダ、
アリを見るのタダ。


第25話のセリフより

イ・チョルの葬儀にヒョンドの部下が香典を持ってきます。妻チン・ソネ(スンチョンの母親)は、それに対してヒョンドのところへ訪れたシーンでのセリフから。

チン・ソネ
今日、伺ったのは、夫が憧れてた画材を拝見したかったからです。あれですね。…..(画材セットの側に寄る)あの人は、気に入った鉛筆1本と焼酎1杯さえあれば、世界で一番裕福だと思える人でした。でもあなたは貧しい人間に見える。高級品に囲まれているのに、なぜ、そう見えるのかしら。

ファン・ヒョンド
負け惜しみはやめたほうがいい。人が聞いたらどう思うでしょうか。

チン・ソネ
他人の意見なんか興味ありません。あなたは否定できないはず、一度も満足したことはないでしょうから。貧しいあなたに似合う色ね。(グレーの色鉛筆を手に取り、二つに折り、投げ捨てる)鉛筆代は払います。(ヒョンドからの香典を置いて行く)

感想記-選択は常に代償を伴うものだ

家族の大切さを描いたこのドラマで、テヨンの父親であるファン・ヒョンドの存在は特に印象深く残ります。第22話のセリフにもあるように、ヒョンドは、貧しい者を徹底的に見下し、富こそが人生のすべてで、「神をカネという言葉に置き換え、カネこそが信仰」という価値観の持ち主です。

スンチョンの父親イ・チョルを高級画材で嘲笑するシーンは、その傲慢さが際立っています。さらに真実を知る者を次々と排除しようとした彼の行動や言動は、人間の命と尊厳をあまりにも軽視し、実の息子であるテヨンに対しても、自分の地位にとって邪魔になると判断すれば、躊躇なく命を狙うという冷酷さを見せています。

一方、イ・チョルは、まるで対極です。借金を抱え、生活に苦しみながらも息子への愛情を決して失わない。
彼の土下座や涙には、金銭的な無力感と、父親としての誇りが同居しています。しかしスンチョンにとって、その姿は惨めでしかなく、彼の中で「貧しさ=恥」という思いが深まっていきます。

イ・チョルが、目の前のテヨンの姿をした人物が、自分の息子、スンチョンで、自分たちを侮辱し、貧乏な家を軽蔑する人間を選んだと感じて、そのスンチョンに「二度と来るな」と叫んだ時は、貧しいながらも誠実に生きてきた自負と、それを息子に踏みにじられたと感じた悲しみを感じるシーンです。

スンチョンは、テヨンになることで、イ・チョルと正反対なファン・ヒョンドに出会い、改めて実父の家族への愛情の深さを感じ、父の死で、その気持ちを裏切った自分自身を許せないと慟哭するシーンは救われないものがあります。

「裕福な父」と「貧しい父」という対比は、ファン・ヒョンドの冷酷さや非情さが強まるほど、イ・チョルの素朴で温かい愛情が際立ち、カネさえあれば何も不安はないと、何の躊躇もなく選んだ人生が、スンチョンに罪悪感と苦悩を与え続けることになります。

ここでは挙げていませんが、ドラマ最終盤で、イ・スンチョンファン・ヒョンドに「選択は常に代償を伴うものだ」と言うセリフがあります。

貧しい生活から脱却するため、ファン・テヨンの人生を選んだという「選択」が、計り知れない代償を支払うことになります。

実の両親や妹の平凡な時間を失い、貧しい生活から救いたかった実父イ・チョルを死に追いやってしまったこと、また、ジュヒヨジンとの関係も複雑にねじ曲がり、そして何よりも、富を得た喜びと同時に、親を捨てたという罪悪感に苛まされます。

スンチョンがこの代償を支払う過程で学んだのは、「簡単に得られたものは、必ず何かを奪っていく」という厳しい真実です。

スプーンの効力として、1ヶ月、1年、10年で、選択を変えられる猶予があり、今の人生を選ぶかという究極の選択を迫られ、どちらを選んでも何らかの喪失を伴うことを悟ることになります。

そういえば、劇中で「誕生日に実の親に会うと元に戻る」という誕生日ルールがありましたが、「血縁の絶対的な力」と「運命からの逃走は不可能であること」を象徴しているのかもしれません。

今回は、ドラマ『ゴールデンスプーン』に登場する二人の父親、ファン・ヒョンドイ・チョルの対比を通じて、「親としての価値観」について深堀りしてみました。

血縁を超えた愛情、あるいは富と権力による冷酷な支配。この二つの価値観の狭間で葛藤し続けた主人公スンチョンの選択は、「もし自分ならどちらの親を選ぶか」という問いを投げかけます。

物質的な豊かさだけでは満たされない、家族の絆が、人生における最も重要な資産であると示唆しているこのドラマを見て、自分の思う「金の匙」とは何かを改めて考えてみるのもいいかもしれませんね。

最後に、財閥会長として常に余裕と冷酷さを保ち、感情をむき出しにすることがほとんど無いファン・ヒョンドを演じたチェ・ウォニョンの演技も印象的でした。

静かで抑制されたトーンは、その声と同じく、非人間的な冷酷さを一層強調的する効果がありました。

スンチョンの物語は「選択と代償」がテーマですが、ヒョンドの物語として「欲望の無限の連鎖と破滅」のテーマも見逃せないものがあります。

作品概要/キャスト

作品概要
公開年:2022年(全27話)
放送局:MBC
原 題:『금수저(クムスジョ)』(金の匙)
原 作:NEVERウェブトゥーン漫画『金のさじ』
イ・ジョンウォンは、2022年MBC演技大賞で新人賞を受賞。ファン・テヨン家の庭師役でナ・イヌが特別出演しています。
キャスト
イ・スンチョン (演:ユク・ソンジェ
ファン・テヨン (演:イ・ジョンウォン
ナ・ジュヒ (演:チョン・チェヨン
オ・ヨジン/チョン・ナラ (演:ヨンウ
イ・チョル……スンチョンの父親 (演:チェ・デチョル
チン・ソネ……スンチョンの母親(演:ハン・チェア
イ・スンア……スンチョンの母親 (演:ムン・スンユ
ファン・ヒョンド/クォン・ヨハン……テヨンの父親 (演:チェ・ウォニョン
ソ・ヨンシン……テヨンの継母 (演:ソ・ヨンシン
ソ・ジュンテ……ヨンシンの息子 (演:チャン・リュル
チャン・ムンギ……テヨンの運転手(演:ソン・ウヒョン
金のスプーンを売る老婆 (演:ソン・オクスク
テヨン家の庭師 特別出演ナ・イヌ

コンテンツ・配信サービス

■本作は、ディズニープラスにて独占配信されています。また、DVD-BOXやオリジナル・サウンドトラック(OST)もリリースされています。

まとめ

『ゴールデンスプーン』は、格差社会を背景に、「何を得て、何を失うか」を問いかける作品です。
親の愛、家族の絆、そして人生の選択——
これらを見つめ直すことで、読者自身の“金の匙”について考えるきっかけになります。
興味を持たれた方は、一度ご覧になってみてください。